「枕草子 第十段 」歌環の元ネタ。

枕草子 第十段

歌環の元ネタ。

 

枕草子原文)

山は、小暗(をぐら)山、鹿背(かせ)山、御笠(みかさ)山、木(こ)の暗(くれ)山、入立(いりたち)の山。

忘れずの山、末の松山、方去り山こそ、「いかならむ」と、をかしけれ。

五幡(いつはた)山、帰(かへる)山、後瀬(のちせ)の山。

朝倉山、「よそに見る」ぞ、をかしき。

大比礼(おほひれ)山も、をかし。

臨時の祭の舞人などの、思ひ出てらるるなるべし。

三輪の山、をかし。

手向(たむけ)山、待兼山、玉坂山。

耳成(みみなし)山。

 

 

「小暗山峯立ちならし鳴く鹿のへにけむ秋を知る人ぞなき」古今集

小倉山の峰を歩きまわって鹿が鳴いているが、今まで幾秋あのようにして過ごして来たのであろうか。随分長いことであろうが知っている人はいない。

 

「少女(をとめ)らが続麻(うみ)をかくとふ鹿背の山時しゆければ都となりぬ」万葉集

娘たちが績(う)んだ麻糸を懸けておくという桛(かせ)――その名に因む鹿背山は、時の移り行きで都となったことだ。

 

「平城(なら)の京は陽炎(かぎろひ)の春にしなければ春日山御笠の野辺に桜花木(こ)の暗(くれ)隠(がく)り」万葉集

奈良の都は春ともなると、春日山や三笠の野辺に桜花の木陰に隠れて

 

「天の原富士の柴山木の暗の時ゆづりなばあはずかもあらむ」万葉集

富士の柴山のこの夕暮れの、時が過ぎていったら、逢えないかもしれません。

 

「大君の心を緩(ゆら)み臣(おみ)の子の八重の柴垣入り立たずあり」古事記

大君の王子の柴垣は、幾度も縛り、厳重に結い巡らして縛っても、切れるでしょう。

 

陸奥(みちのく)の阿武隈川のあなたにや人忘れずの山はさがしき」古今和歌六

陸奥にある阿武隈川の彼方には険しい不忘山が立ちはだかっているように、忘れえぬ人にはなかなか逢うことがかないません。

 

「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山浪も越えなむ」古今集

あなたをさしおいて、私が浮気心を持つようなことがあれば、あの末の松山を波が越えてしまうでしょう。

 

「忘れなば世にも越路の帰る山いつはた人に逢はむとすらむ」伊勢集

忘れてしまいましょう。どんなことがあっても帰って来ないでしょうから。遠い越路の帰山・五幡山から、いつまた帰って来て逢うつもりなんでしょう。

 

「かにかくに人はいふとも若狭路(わかさぢ)の後瀬(のちせ)の山の後も逢はむ君」万葉集

いろいろと人は言うとしても若狭道の後瀬の山のようにこの後もお逢いしましょう、愛しいあなた。

 

「昔見し人をぞ我はよそに見し朝倉山の雲居遥かに」夫木抄(ふぼくしょう)

昔の恋人を今は私、気にも留めなくなってる。まるで朝倉山の雲が遥か向こうに離れてるようにね。

 

「大比礼や小比礼の山は寄りてこそ山は良らなれ遠目はあれど」東游(あずまあそび)

大比礼や小比礼の山は近くで見てこそだ。山は素晴らしい。遠くから眺めた時は素晴らしくないけれど。

 

「わが庵(いほ)は三輪の山本恋しくばとぶらひ来ませ杉立てる門(かど)」古今集古事記三輪山伝説が背景)

私の庵は三輪山の麓です。恋いしく思われるなら、どうかお尋ねください。杉の木の立っている門ですので、お分かりになると思います。

 

「春日野(かすがの)は今日はな焼きそ若草の妻も籠(こも)れり我も籠れり」古今集伊勢物語妻籠り伝説が背景)

春日野の農民よ、きょうは野焼きをしないでくれ。妻もこの野にこもっているし、私もこもっているのだから。

野にこもる・・・もしかしたらエロい意味かもしれない。

 

「津の国の待兼山(まちかねやま)の喚子鳥(よぶこどり)鳴けど今来といふ人もなし」古今和歌六帖(采女(うねめ)投身伝説が背景)

待兼山呼子鳥が鳴くようにいくら泣いても、恋するあの方が来てくれない。

 

「香具山(かぐやま)は畝火(うねび)を愛(め)しと耳成(みみなし)と相争ひき神代(かみよ)よりかくなるらし古(いにしへ)も然(しか)なれこそ空蝉(うつせみ)も嬬(つま)を争ふらしき」万葉集

香具山は、畝傍山(うねびやま)が愛しくて、恋仇の耳成山(みみなしやま)と争った。神代よりそうであったらしい。昔もそうなのだから、現実でも妻をめぐって争うのだろう。