(Facebook投稿記事)
19世紀初頭の、未完のドイツ文学です。
青山隆夫さんの訳は読みやすかったです。
ノヴァーリス自身は22歳の時に、12歳のゾフィーという少女と出会い、「15分間が僕の運命を決定した」という恋におちいった。
しかし、彼女は15歳の時に息を引き取る。
恋人を失った苦しみから逃れるために、彼は神秘主義(今で云うスピリチュアル)に傾倒していき、この作品を途中まで仕上げた後、彼は29歳で夭逝した。
この作品は、彼女を鎮魂するためなのだろうか、はたまた冥界と繋がって彼女と交信を図ろうとしたのか、途中からゾフィーという名の女性が登場する。
内容については、言っちゃ悪いが駄作ではないだろうか?
話の筋も面白くなく、また、合間に出現する詩も面白味がないように思える。
ただ、終始に亘ってポジティブな物語なので、読んでいて嫌な気分にはならない。
ハインリヒという貴族の少年が主人公であり、詩人志望である。
彼は夢で見た「青い花」を探すため、母親と一緒に旅に出る。
途中、坑夫の老人と知り合う。
その坑夫がなかなかの教養人で、神への信仰と物質世界の理について探究した論を語る。
ちなみに、この時代の物質世界の探究といえば、錬金術やガルヴァニズム(電気が生命の元だという説)などがある。
そして、坑夫の娘であるマティルダと恋に落ち、結婚を約束する。
ハインリヒと母親は、祖父の家に向かう。
婚約者マティルダも付いていく。
祖父の家に着くと、再会を喜んだ後、その家で詩人のクリングゾールという老人と出会う。
クリングゾールは一つのメールヒェン(物語)を語ってくれる。
これが俗に言う、「クリングゾールのメールヒェン」である。
このメールヒェンも、あまり面白くないわりに意外と長かった。
ゾフィーの娘であるファーベルが冥界に行き、敵を倒して、ゾフィーの息子エロスが剣を掲げて、ゾフィーが水盤の水を祭壇に注ぐと、大地はその奥底で震動し…なんだかんだでファーベルとエロスが世界を平定した。
「永遠の国は打ち建てられた、愛と平和のうちに戦いは終わった、苦しみの長い夢は過ぎ去った、ゾフィーこそ永遠に心の祭司。」という詩でこのメールヒェンは終わる。
その後、マティルダの死亡したシーンは全く書かれてない。
第二章はハインリヒが冥界でマティルダと再会を果たす辺りから始まる。
そのまま、未完で終わる。
以下、面白かったシーン。
p.229、クリングゾールのメールヒェンにて
(引用)
スフィンクスが尋ねた。「稲妻よりも不意をついてくるものはなんだ」
「復讐よ」とファーベルが言った。
「いちばんはかないことはなんだ」
「不当に所有することよ」
「世界を知るものはだれだ」
「自分自身を知るものよ」
「永遠の秘密は何か」
「愛よ」
「愛はどこにある」
「ゾフィーのところよ」
スフィンクスが弱々しくうなだれてしまったので、ファーベルは洞窟の中へと入っていった。
(引用、終わり)
p.270、動物と植物の視界について、ハインリヒと医師ジルヴェスターとの対話
(引用)
ハインリヒ「どの草にも木にも、丘や山にも、それぞれおのが視界、固有の領域があるのです。(中略)ところが動物と人間は、いたるところ移動できるので、あらゆる土地が自分の領域というふうで、すべてがまとまると大きな活動領域、無限の視界にひろがるようですが、それでも人間や動物へのその影響は、もっと狭い環境での植物に対する作用と同様に、はっきりと見てとられます。」
(引用、終わり)
これは、シラーの「人間の美的教育について」辺りが恐らく元ネタだろうか?
ちなみに、「人間の美的教育について」という本は、みなとみらいのエスカレーターに書いてある詩の元ネタでもある。
https://www.amazon.co.jp/青い花-岩波文庫-ノヴァーリス/dp/4003241215