スメタナ「わが祖国」について。

(Facebook投稿記事)

 

ベドジフ・スメタナ「わが祖国(Má Vlast マ・ブラスト)」について。


https://mag.mysound.jp/post/769
(下記は、この記事↑の補足として書いたものです。)

まず、ベドジフのジは、巻き舌のルとジを同時に発音します。
また、フはフとハの間の音です。

こういうストレードアシッドな(調性的な)クラシック音楽は、歴史的背景を知らないとただのクサくてつまらない古典音楽へと化してしまう恐れがあります。

まあ、個人的にはこの何とも言えない土臭さが好きなのですが。
この曲は、ボヘミア王国の民衆による右翼的な思想が根底にあります。

この音楽は15世紀のフス戦争にまで遡ります。
プロテスタントの走りと言われるヤン・フスが異端とされ火刑に処せられたのをきっかけに、プラハ城に対して民衆が蜂起したのがフス戦争です。
プラハ城の王家はドイツ系であり、神聖ローマ帝国側のカトリック教徒です。
当時の王家は民衆にドイツ語を強要するなどして民を縛り付け、チェコ人としての民族的な矜持を消し去ろうとしていたため、このフス戦争はチェコ人の民族運動に等しいものでした。
私はキリスト教徒ではないためフス派の教えがどういうものか知りませんが、プロテスタントのため偶像崇拝はせず聖書至上主義であり、また、民衆にも聖職者と同等の神性があるとしたキリスト教本来の平等主義による教えだったのかもしれません。
もちろん、スメタナはフス派の支持者であり、そういう意味で右翼です。
ヨーロッパの民は、たとえ戦争に負けたとしても、何世紀にも亘って敵への憎悪を共同で持ち続けるということがあるのですね。
例の川の名前も、モルダウという呼び名はドイツ語なので、チェコ語でブルタヴァと言わないとスメタナに怒られると思います。

なお、スメタナベートーヴェンと同じく、この曲を作曲した後に聴覚障害を患うことになります。

「わが祖国」曲の構成

1.ヴィシェフラット
これはヴィシェフラット城のことです。
ヴィシェフラットとは「高い城」という意味で、その城はボヘミア王の拠点でしたが、フス戦争によりフス派によって破壊されたため廃墟と化していました。
なのでこのテーマは、城の美しさを歌ったものでありながら、城を破壊する側の気持ちが込められているのでしょう。

2.ブルタヴァ
ブルタヴァ川の流れの美しさがテーマとなっており、一番有名な楽章です。
スメタナはこの楽章について以下のように述べています。

(引用)
この曲は、ヴルタヴァ川の流れを描写している。ヴルタヴァ川は、Teplá Vltava と Studená Vltava と呼ばれる2つの源流から流れだし、それらが合流し一つの流れとなる。そして森林や牧草地を経て、農夫たちの結婚式の傍を流れる。夜となり、月光の下、水の妖精たちが舞う。岩に潰され廃墟となった気高き城と宮殿の傍を流れ、ヴルタヴァ川は聖ヤン(ヨハネ)の急流で渦を巻く。そこを抜けると、川幅が広がりながらヴィシェフラドの傍を流れてプラハへと流れる。そして長い流れを経て、最後はラベ川(ドイツ語名:エルベ川)へと消えていく。
(引用、終わり)

3.シャールカ
乙女戦争という架空の話によるもの。
シャールカという女性は人間的にクズであり、けが人のふりをして男性をおびき寄せ、自分を助けようとしたその男性を捕虜に取り、その男性の配下を皆殺しにします。

4.チェコの牧草地と果樹園から
邦題では「ボヘミアの森と草原から」と訳されていますが、なぜかグーグル翻訳にかけると上記のようになりました。
原題は「Z českých luhů a hájů」ですが、luhůとhájůという名詞は所有格(~の)により語尾がůとなっております。(チェコ語では名詞の語尾が変化します。)
どちらも手持ちのオックスフォードの辞書には載っておらず、グーグルで検索しても出てこなかったため、変化前の純粋な名詞が何なのかは私には分かりませんでした。

5.ターボル
ターボルとはフス戦争において、フス派のプロテスタントの過激派の拠点だった場所です。

6.ブラニーク
ラニークとは、チェコを守る聖ヴァーツラフが眠るとされる山の名です。
ボヘミア公ヴァーツラフとは、10世紀にボヘミアキリスト教国家にしようとして反対派に殺害された人で、キリスト教では聖人とされています。
なお、この楽章により、チェコの勝利を壮大に讃えたテーマとなっております。