パスカル・キニャール「アマリアの別荘」、読了。

(Facebook投稿記事)

 

パスカルキニャール「アマリアの別荘」、読了。

 

いつもながらの脱構築小説ではなく、これはキニャールにしてはやや珍しい、一つの物語です。

 

主人公はアン・イダンという中年の女性で、現代音楽の作曲家を本業としています。

その女性の美しい生き様が主として現れた小説となっています。

 

アンはトマという恋人の浮気現場を目撃し、彼とは別れ、そこでジョルジュという幼馴染の男性に出会います。

そして、彼女はしつこく言い寄るトマから逃れるためもあって、イタリアへ引っ越そうと考え、そこでとある海辺の空き家を見つけます。

その空き家は、アマリアという老女の別荘でした。

夏は暑くて大変だが、アンにとってはこの上ない喜びを伴う場所だったので、この別荘をアマリアから購入することに決めました。

そして、彼女は医者のラドニツキーと言う男性と出会って恋をしますが、離婚経験のあるラドニツキーにはマグダレナ(通称レナ)という幼い娘がいて、アンはレナと仲良くなり、心の支えの一つとなります。

 

この物語はとにかく、情景描写の美しさに注意を払って書かれていることが分かります。

キニャールが絶賛していたプルーストの「失われた時を求めて」のようなしつこいぐらいの情景描写ではなく、もっと控えめな美しさがあります。

 

(引用、p.194)

テラスの上には、葉っぱ、花々、鉢、受け皿、テーブル、枝などで水晶のようにきらめいていた。

彼女は果物を盛り合わせたコンポートやタルトの容器や小皿を載せた盆を持ってきて、ちびちびつまみ食いをしていた。

ナポリ湾の光はおそらく、この世で見ることのできる光のうちでもっとも美しい光だろう。すべてに海の匂いがあり、海に似て、たえず遠くで小さな波が目覚め、光の満ち干があり、庭の土はその光によって再び新鮮になり、鋤が入るたびに、驟雨が来るたびに、短い茶色と黒の小さな波となって掘り返されるのだった。

海の真ん中で暮らしている印象を与えてくれるこの場所に、彼女はすっかり惚れこんでいた。

この自然の断片を大切に手入れした。そこで育ち、そこに押し寄せ、そこで繁殖する生命を気遣い、せっせと世話をした。夜、異様だと思える音が聞こえてくると、どんなに小さな音でも起きて身構えた。この帯状の土地と、この細長い別荘を彼女は汲々として保持していた。

 

https://www.amazon.co.jp/アマリアの別荘-パスカルキニャール/dp/4791765486