アンドレ・ブルトン「シュルレアリスムと絵画」、読了。

(Facebook投稿記事)

 

アンドレ・ブルトンシュルレアリスムと絵画」、読了。
20世紀の精神科医ブルトンによる、絵画分析を主としたエッセイ集です。

 

ブルトンの書いた本文もさることながら、日本語訳と詳説も最高峰のものでした。
巻末の索引に至るまで書かれた文字は余す所なく全て読み、全部で584ページありましたが骨の髄までしゃぶり尽くした感もあり、この本にはそれをするだけの価値があるような気がします。
ちなみに、価格は本来ならばプレミアが付いて1万円を超えるはずでしたが、神保町の古本屋である日本特価書籍さんにて2800円という格安の値段で購入することが出来ました。

 

内容は、やはりブルトン独特の難解さがあります。
私は、その時その時においてちゃんと理解した上で次の項目を読み進めていたのにも拘わらず、読了後の現在はあまり内容を思い出せません。
ただ、都度理解しながら読んだだけのことはあって、もう一度読めば確かにその部分をすっと思い出すことは出来るようなので、この本を読んだことは決して無駄にはなっていないことが分かりました。

 

なお、シュルレアリスムについて知らない人のために述べるならば、シュル(~の上に)+レアリスム(現実主義)というのは「超現実主義」と訳されることがあります。
つまり、既存の現実主義を超えた、オカルトが母体となっているのがこの思想なのです。

 

例えば、コックリさんの要領で無意識に手を動かして描いたものを「オートマティスム」と言います。
画家ジョアン・ミロの不思議な絵は、多くがこれで描かれています。
また、ブルトン「溶ける魚(うお)」などの作品は、この方法にて文章を適当に書き連ねていったものです。

 

また、画家ルネ・マグリットの取った方法は「デペイズマン」と言い、ある物を全くあり得ない環境の中に描くことです。
だからこそ、空の中にカーテンが描かれていたりするのです。
ちなみに、デペイズマンにより物自体へのしがらみが解放され、「それはそこになければおかしい」といった脳内の思い込みを破壊することで、精神の解放へと向かうはずだと考えたのもブルトンです。

 

ロベルト・マッタの絵は「破壊→性的欲求」と「死への願望」の二つを最も対立させて描かれているのが特徴だそうです。
そして、マッタの絵に描かれている人間は、周囲に描かれた環境とは無縁であり、その人間はあくまで内面的な精神性を描いたものだと分析しています。
そう言われてみると、そんな感じがします。(←こういった「芸術家への共感」の積み重ねによって、芸術的センスは磨かれるのかもしれません。)

 

なお、他にもこの大著にある多くの内容の中から掻い摘んで、個人的に印象に残ったものだけを簡素な言葉で述べたいと思います。

 

・「イヴ・タンギーは絶えず地球の磁場と交信していた」というオカルトチックな推測。

ブルトンが詩人ルイ・アラゴンと画家キリコの三人で居合わせた際、知らない子供が物乞いをしに来て去って行き、「あれは間違いなく幽霊だったよな」と三人が真顔で語る。

・ちなみに、キリコは絵の題材を決める際などに、ナポレオン3世カミッロ・カヴール(イタリア統一後の初代首相)の幽霊たちと討議していたと語っている。

・プティ・カイエ(小さな紙)という、紙に書いた言葉をランダムに繋ぎ合わせる遊びにより、シュルレアリスム文学の研究をしていた。

・「ダリは強烈なナルシシズムにより精神病になるはずだったが、それを芸術に昇華させることによって精神病にならずに済んでいる」という当時の精神分析学に基づく解釈。

・「実存主義の嘔吐的な側面」という言葉で唯物論サルトルへの嫌悪を示している。

 

これを機に「是非読みたい」と思われた方は、ご一報下されば3ヶ月間ほど私からお貸ししても良いと思っています。
そして、「もういいや」と思われた方はそのまま去って行かれることをお勧めします。

 

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