(Facebook投稿記事)
ジャン・パウル「気球乗りジャノッツォ」、読了。
内容のほぼ全てが皮肉と諷刺とややブラックなユーモアで出来た、ドイツの小説です。
この小説はローマ出身の画家ジャノッツォが気球に乗って旅をした際の航行日誌を、友人のグラウルが発見したものという設定です。
恐らく、ジャノッツォの気球航行の資金源は銀行家の伯父によるものだと思います。
ジャノッツォは、貴族のパーティでコウモリを放ってみたり、ブラーゼンシュタイン要塞(尿管結石という意味)の真上にてわざとフランスのマルセイユ行進曲を鳴らし、一度守備隊から警告を受けたが彼がそれに反抗したために発砲され、気球で逃げ果せたりします。
そうかと思えば、ジャノッツォがブロッケン山の麓の小屋に宿泊した際、悪魔を見たりします。
こうして、貧困家庭出身の著者が、ブルジョアと唯物論に支配された当時のドイツ社会をよっぽど嫌っていたことがふんだんに詰め込まれた内容となっています。
なお、皮肉や諷刺については、小説が完成された1801年当時の社会情勢の知識がある程度必要なのに加え、文章の手が込み入り過ぎていてよく分かりませんでした。
ちなみに、著者はゲーテやシラーを嫌悪していました。
そして、著者の作品は後にハイネやトーマス・マンなどの作家が愛読し、ドイツ文学界に大きな影響を与えているそうです。
ただ、気球航行中や自然、また、テレサという名の女性への恋心などについては美しい文体で書かれていました。
個人的には、面白くなって来たのは第7航からの話でした。
(引用、第7航、p.70)
冴えた輝きが、ぼくの眼をさまさせた。「どこにいるんだろう?」とぼくは言った。ぼくは、暖風に吹きつけられ、見渡しがたい銀色の、ふわりとした泡へとかき立てられた星々で、もろともに波立っている大海の上を、さらに先へと滑走中でーー雪の霧のように、光のもやのように、やわらかく白い大海ーーぼくの小屋の窓はすべて、きらきらと輝いているーーぼくは、すっかり照らされていた。ーーぼくは、夜の大地の上をおおう雲の空を航行し、そして、この雲の空のあげ潮のなかで、すでに登った月が、虚空へと飛び立つまえに、輝く羽をつけた白鳥のように、あらゆる大波を隈なく照らしながら佇んでいた。
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