(Facebook投稿記事)
John Coltrane「Stellar Regions」の中古CDを購入しました。
インパルスのアメリカ盤であり、かの有名なVan Gelder Studioで録音され、ミキシングもRudy Van Gelder氏によるものです。
聴けば聴くほど旨味の分かる、いわゆる「スルメ曲」ならぬ「スルメアルバム」だと感じます。
このアルバムは、和声や旋律の進行法などの「工学的な要素」を考える必要はあまりなく、それよりもジョン・コルトレーンの精神性に自分の心を同期させようとし、「精神要素」で理解出来るまで何度も聴き続けることが大事なように思えます。
その「濃い音楽を繰り返し聴く継続」で得られた感度は、一生モノの教養、一生モノの感性となります。
この曲に限らず、こういう深い曲を何度も聴いてその良さを実感し、ある特殊な領域に踏み込む悦楽を得て欲しい所です。
音楽の凄さはここにあります。
その当時の作曲者・演奏家の精神的な深みが全て詰まっているのが音楽であり、それがちゃんと他人にも伝わるのが凄い所です。
そして、熟成された珍味を味わった後でジャンクフードを食べるがごとく、その後に自分の好きなポップスなどの「軽いもの」を聴くと、今までよりもそこから見えて来るものが変わっているのが分かるかと思います。
自分の生きている世界が、今までと違うのです。
私は元々Spotifyで聴いていたのですが、今回CDを購入したため、それをWAV.ファイルに落としてスマホで聴いています。
やはり、よく聴く曲だったこともあって、音質の違いが分かります。
Spotify(有料会員)よりもCDの方がずっと音質が良く、前者は小綺麗に周波数がカットされているものの今までは身体がそれをスタンダードの音源だと思い込んでいましたが、後者には前者の欠損部も含めて音楽が身体にどんどん沁み入って行くのが分かるのです。
買った初日には、感動のあまりこのアルバムを2周連続で聴いてしまったほどです。
なお、このアルバムが録音されたのは1967年2月。
その5ヶ月後の1967年7月17日にジョン・コルトレーンは肝臓癌にて亡くなります。
彼がスピリチュアルに救いを求めていた末期の頃の作品となります。
後期コルトレーンによくあるテナーサックスのフラジオにてハーモニクスを出しているのが特徴で、心の叫びが聴こえて来ます。
その叫びは、「Om」というアルバムでは執拗に救いを訴えているのに対し、この「Stellar Regions」では全体的にやや諦観のようなものを探っている気がしなくもないです。
そのせいか、「Om」ほどのグロテスクさはないように思えます。
また、そのフリーな心の慟哭を上手く引き立たせているのは、彼とは対照的に冷静で和声的なアリス・コルトレーンのピアノでしょう。
ジョン・コルトレーンのサックスが刺すような白色の尖った光だとすると、妻であるアリスのピアノはいつも哀しげな紫色に見えます。
夫婦としての音楽的な相性は抜群です。
なお、このアルバムの音源は、1994年に未亡人アリスによって発見されました。
よくぞ、世に出してくれたと思います。