私が知らない程度に有名な作家は、ランゲ&ゾーネの1815を持っているんだよね。
300万円くらいの時計。
もの書きは、私が知らない程度の有名度合いでも、ちゃんと稼げるんだなってことが分かった。
もし私がこのまま翻訳家になれたら、そのうち自ら詩人になろうかなと思ったこともある。
ただ、詩人は命を削るよ。
詩を書くと、ごっそりエネルギーが持って行かれる感じがする。
まだ翻訳家だったら、他人が出してくれたインスピレーションに乗っかるだけで済むけど、詩人は自らがインスピレーションを湧かせないといけないから。
詩人っていうと、傷つきやすくて繊細な若者がスラスラスラ〜っとノートに書いているイメージがあるかもしれない。
しかし、実際はノートが鉛筆の消し跡で沢山の溝ができ、ノートの次のページとそのまた次のページには前のページの筆跡が写ってしまい、それらも消しゴムで消していかなければならない。
そうして、消しゴムのカスだらけになった机からそれを手で集めて灰皿に捨て、ああでもないこうでもないと考えあぐねる、この繰り返し。
現在なら、ノートの代わりにスマホ片手で出来るけど、指が疲れて来るからやっぱりノートに戻ってしまうかもな。
そう、詩人とか詩の翻訳家っていうのは、この「泥臭さ」からは逃れられない仕事だ。
音楽の即興詩人が、ジャズ奏者。
ジョン・コルトレーンは、1曲につき常に13テイクは取っていたという。
1曲ですらあんなに濃いのに、13回。
彼がたった一音出すことにすら、ものすごい試行錯誤の積み重ねによる背景がある。
ジョン・コルトレーンは文字通り命を削り、精神状態が不安定なまま、肝臓癌にて40歳で死亡した。
芸術家の仕事ってのは、泥臭いことの積み重ねだ。
そんなことを繰り返しているとやがて自分の限界が見えて来るのに、それでも自分は今よりももっと良いものを作りたくなる心ばかりが芽生え、そのうち「どこまで妥協出来るのか」と考え始めたりする。