D.J.ジェイコブ「大気化学入門」、読了。

(Facebook投稿記事)

 

D.J.ジェイコブ「大気化学入門」、読了。
版元は東京大学出版会です。

ハーバード大学教授が書いた本だけあって言い回しがやや難解であり、また、アメリカ式なため章末問題が多めです。
ただし、私は第1章の1問目を除いた全ての問題が解けなかったため、問題文は一度目を通したらすぐに次の行を読み進めることにしました。
このような難しい問題が沢山出るわけなので、ハーバード大学の学生がいかに大変な思いをしているかがよく分かりました。

この本、実は私の学生時代から知っており、何度も図書館で借りてはほとんど読まずに挫折し、借りては挫折を繰り返し、それから10年ほど経った時にはついにお金を払って購入したはいいけれども、またそれも積読になってしまいました。
けれども、今になって読んでみたら文章がすっと頭に入って来るようになったので、そうなると学生時代に図書館で得た最初の直感のワクワクセンサーから約17年越しで読了へと至ったわけです。

ちなみに、なぜそこまでワクワクしたかというと、日本語訳されたこの本にのみ載せられた表紙の気球がとにかく魅力的なのです。(写真1枚目)
しかも、この気球はただの気球ではなく、気象観測用に作られた少しレアなものなのです。
なお、この気球については「北極成層圏オゾン層の破壊の研究を目的とした東京大学・国立環境研究所チームによる気球実験(1997年2月にスウェーデンで実験)」との説明がなされています。

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さて、この本の内容ですが。
ここでは主に大気に浮遊する物質や、その物質による汚染の影響について述べられています。
前半は気象学の物理についてや化学モデルの立て方など大気化学の入門知識に終始するため、数式が多めでした。

ここで化学本を読むための前提知識を書いておきますが、Mという単位はmol/l(=モル/リットル)のことです。
つまり、1リットルの大気の中に何モルの化学物質が含まれているかという意味です。

加えて、molというのは「ひとかたまり」のことです。
例えば、「鉛筆が1ダースある」というのは、箱の中に鉛筆が12本入っていることを言いますよね?
それと同じく「原子が1モルある」と言われたら、6.022×10の23乗個の原子がそこにあるということになります。

また、ラジカルというのは、反応しやすい不安定な原子・分子のことです。
原子核を回る電子の数が、通常のものに比べて数が違うのです。
大気化学でいうと、大気中の化学結合や太陽光熱(hν)などによって電子が移動することにより出来上がります。

そして、化学物質には寿命というものがあって、寿命が短いとすぐに反応して別の物質に変わり、寿命が長いとなかなか消えません。
これが特に大気汚染・土壌汚染を考える上で重要になって来ます。

なお、前半で特に記憶に残っているのは、海洋では炭酸塩がpH値によって別の化学物質へと変質するということです。
これは写真2枚目に載せておきますが、pHが低いと「炭酸(CO2・H2O)」が多くなり、pHが中くらいだと「炭酸水素イオン(HCO3-)」が多く、pHが高いと「炭酸イオン(CO3 2-)」が多くなります。
なお、海洋の平均pH値は8.2だそうで、平均的な海はアルカリ性だということです。

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さて、後半では数式は大幅に減り、代わりに化学式がメインに登場します。
私は数式には惹かれるものがあっても化学式にはそれほど興味がなかったため、読んでいてつまらなさを感じることも多々ありましたが、それでも確かな収穫はありました。

まず、大気化学といえばオゾン(O3)や地球温暖化が真っ先に思いつくでしょうが、実は産業革命以降に増えた工業的な窒素酸化物(NOx)がオゾン層を守っていたことが判明したのです。
ただし、それは「成層圏」でのオゾンの話です。
ちなみに、地球温暖化問題におけるオゾン層というのは、一般に成層圏のオゾンのことを指します。
しかし、我々の住む「対流圏」ではむしろオゾンは毒性のある汚染物質と見なされ、それによりオゾンを増やす窒素酸化物を強く規制すべきだと著者は述べています。
しかも、窒素酸化物は例えば煙突から数えて風下30kmの所などで化学反応してオゾンを生み出してしまうなどするため、結果的に窒素酸化物を少し規制したぐらいではオゾンの量に影響がなく、だからこそそれを50%減らすなどの強力な規制が必要だと述べているのです。

また、水酸化ラジカル(OH)もオゾン層と同じく地球温暖化を抑制する効果があります。
ただし、産業革命後に窒素酸化物やオゾンが増えたため水酸化ラジカルを増やす効果を生みましたが、その一方で炭化水素類や一酸化炭素も増えたため水酸化ラジカルを減少させました。
結果、それらが相殺されたため、水酸化ラジカルは100年前と比べてマイナス7%に留まっているとのことで、あまり変わっていないと著者は述べています。

ちなみに、地球温暖化を最も促進させている物質は、二酸化炭素(CO2)ではなく六フッ化硫黄(SF6)です。
二酸化炭素地球温暖化ポテンシャルを「1」と見なすと、六フッ化硫黄はなんと「16500」です。
著者はもちろん二酸化炭素よりもまず六フッ化硫黄をどうにかすべきだと、!(びっくりマーク)付きで力説しています。
このことは写真3枚目に載せておきます。

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