(Facebook投稿記事)
「いいか、よく聴きたまえ、苦しみのあまり泣いている娘の嗚咽を。そのほうがきみの出す雑多な音よりもずっと音楽に近い。」
人間のどんな感情も音楽にしてしまうと言われる、17世紀ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のサント・コロンブ。
弟子のマラン・マレ。
実在したこの二人の音楽家に纏わる話を小説にしたものであり、今昔物語の琵琶奏者である蝉丸についての話をフランス的に書き換えたもの。
サント・コロンブは、娘二人を持ち、王にも世間にも媚びる事なく、亡き妻のために音楽を奏し続ける。
なお、実際のサント・コロンブは、孤児院に行って音楽を教えたりしていたので、小説のように孤高というほどではなかったのかもしれない。
しかし、彼に関する現存する資料が殆ど残っていないので、王に媚びなかったのは本当だろう。
ある人はこう称した、
「若い女のため息から、老いた男の嗚咽にいたるまで、アンリ・ド・ナヴァールの鬨の声から、夢中になって絵を描いている子供の柔らかな吐息まで、ときに快楽がもたらす乱れた喘ぎ声から、祈りに集中している男のほとんど聞き取れない重々しさまで、ほんのわずかな数の、しかもごく単純な和音で再現してみせた」と。
なお、題名は「めぐり逢う朝」よりも「世界のすべての朝は」と訳した方が良いだろう。
第二十六章の冒頭で「この世のすべての朝は帰ってこない。」と始まるのだから。
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