ウィリアム・ハドソン「ラ・プラタの博物学者」、読了。

(Facebook投稿記事)

 

ウィリアム・ハドソン「ラ・プラタの博物学者」、読了。
この本は、大学時代に神保町の古本屋にて100円で買ったものです。

 

「ラ・プラタ」という言葉は、当時聴いていた坂本龍一の「Tango」の歌詞にも使われており、何て美しい言葉なんだろうという印象がありました。
そして、それらの些末な理由からか直感のワクワクセンサーが働き、内容も分からないままこの本を購入したのでした。
しかし、当時はまだスマホも発明されていない時代。
この本に登場する鳥類や哺乳類の名前を見ただけではそれがどんな生き物なのかが分からず、結局、最初の方で挫折してしまいました。
それが、長らく積読になっていた今になってこの本の面白さに気付くことになるとは、当時からしたら思いも寄りませんでした。
なぜなら、一生積読のまま終わる本なのだなと、長らく思っていたぐらいですから。
しかし、今は昔よりも何かをやり抜く努力の出来る頭になっており、かつ理解力も上がっているため、再び読み始めてみるとその面白さが分かり、ページがどんどん進みました。
なので、この本を読了したことは、まるで15年越しに点と点が線になったとでもいうような「非現実的な導き」に従って得た、そんな経験となりました。

 

そんなことを言っておきながらなんですが、内容が濃いので特に最初の方は忘れかけているため、思い出しながら書きたいと思います。

 

舞台は、アルゼンチンのパンパという草原においてです。

 

・パンパには丈の長い草が生い茂っている。しかし、それは木ではなくて草である。そのためか、鳥たちは他の場所に生息するものに比べて、低音で遠くまで響くような鳴き声を発し、仲間に意図を知らせている。

 

ピューマは非常に人懐っこく、野生のピューマでも人間を襲うことはない。ピューマは人に殺されかける時に非常に憐みを誘う鳴き声と表情をする。ピューマを殺してしまったガウチョ(アルゼンチンの原住民)はそのことを非常に後悔し、二度と殺さないと誓った。

 

・スカンクの毒液は、自然界では最強の毒であると述べている。自然淘汰の末にその性質を備えたのだろう。なお、スカンクは特に天敵がいないため、パンパの野を堂々と歩いている。

 

・蚊は最も不幸な動物だと言われており、動物の血にありつくことが出来る者は全体の1%ほどしかいない。今の学術論文ではどう言われているのか分からないが、この本では生まれてから何も食べずに生きて死ぬのが殆どだと言われている。

 

・キツツキの中には川辺で巣を作ったり、野原だけの生活で餌を得ている種もあるが、遺伝した本能は残り続けたために、それらのものでも木に穴を穿つ習性は残っていたりする。

 

・カゲロウグモは靄のような巣が特徴である(Google画像検索で調べれば出てくる)。これらは、パンパズの大地を大移動するとのこと。それにより、靄のような巣の集団が大移動する。

 

・ハチドリを実際に見た感動は忘れられず、物凄く美しいものであると述べている。

 

・獣や鳥類は強敵に直面すると、死んだふりをする。それは本当に生存機能が停止しており、敵が去ると同時に身体はすぐに元に戻ってその場を去るというのは不思議である。人間に出くわしたキツネは死んだふりをするものもいた。しかし、シロサギのように、本当にそのままショック死してしまうものもいる。

 

・ビスカーチャは地面に穴を掘ってビスカチェラと呼ばれる巣を作り、掘られた土が堆く積もって沢山の小山となっている。ビスカーチャは基本的にビスカーチャ同士での結束は固いが、自分の巣に入られることに関しては攻撃的な拒絶反応を見せる。それは、ジャガーなどに追われているような死が迫っている際でも、他のビスカーチャの巣には入ろうとはしないほどである。

 

パタゴニアの南端に生息するファナコ(鹿の仲間)は、一つの穴の中に死骸が折り重なっている不思議がある。その穴が安全だと本能が認識しているからだろうか?そして、安全な穴の中で生息するものだけが生き残り、遺伝子にはそれが記憶されていて、死が迫るとその穴に向かってゆく本能が備わっているのではないかと著者は推測する。もちろん、他の地域のファナコにはそうした性質はない。

 

・野生のイヌなどの哺乳類は、仲間同士で弱い者いじめをする。それは、集団でのヒエラルキーにおいて頂点に立つものはそういうことをしたのを見たことがないが、大抵はそれ以外のものがやる。それは、種の保存に関しては全くもって有害でしかないため、著者が言うには、それは相手を敵や獲物と間違えて認識する「錯覚・脳の誤り」によるものであると推測する。このことは、ダーウィンなどが「その醜さも自然摂理の一つだ」と唱えるような説には、真っ向から反対する。しかし、著者は牛が血や赤い布に異常なまでの興奮を見せ、その声を聞いた他の牛にもその興奮が伝播する例などから、動物における脳の誤り自体は特に珍しいことではないと断定する。

 

・一方で、鳥類に関しては、脚の悪い鳥や弱った鳥には必ずと言って良いほど、身内ではない他の鳥が何羽か寄って来て、餌を与えたり介抱をしているとのこと。自然とは、(少なくとも同類に関しては、)本当は優しく美しいものであるのだろうと著者は唱える。

 

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