パスカル・キニャール「楽園のおもかげ」、読了。

(Facebook投稿記事)

 

パスカルキニャール「楽園のおもかげ」、読了。
「最後の王国」シリーズの4巻目にあたるものです。

 

人間は元来、動物に捕食される恐れから、本能で避難場所を求めた。
そして、人間は胎児の頃には守られた空間の中にいたが、大気世界に出ると臍の緒が切り離される。
それにより、人間は胎児の安全地帯に戻りたくて、「属することへの欲望」が生まれる。
それにより、人は脳内に楽園を作ったのではないだろうか。
楽園(パラダイス)の語源は、ゾロアスター教典に使われたアベスタ語の「神の囲い地(パリダイツァ)」に遡る。

 

読書をする際の自分の心の声は、胎児の頃に見ていた夢に由来し、それに言葉が加わって出来たもの。
イメージの語源である「イマーゴ」は、元来は頭部の頭蓋骨のことを言う。
胎児の夢、視覚以前の夢は、楽園である。
性的快楽の中に女性が見せる、溺れるようなあの眼差しは、胎児の夢に帰っているから。

 

(引用、p.180)
「金枝を摘む」とは、大地を踏むことなく、太陽のように落日もしないという意味の表現である。人間に置き換えるなら、会陰部とは大地にも触れず陽の目も見ない場所となろう。
大地と天、夏と冬の間のヤドリギのような、生と死の中間地点。
天が大地に触れる、それは雷だ。
触れてはならぬ場所に触れること。
触れてはならぬ大地に近づくこと。
(引用、終わり)

 

(引用、p.216)
音楽のレッスンではない荘子の教訓話をわたしは読んだことがない。
音楽とは何か。
時間とは何か。
時間を遡ったり下ったりすることだ。
文学とは何か。
時間を遡ったり下ったりすることだ。
思索とは何か。
時間を遡ったり下ったりすることだ。
(引用、終わり)

 

なお、巻末にある訳者の解説「おぼろげな君ー〈最後の王国〉シリーズをめぐって」は、解説として完璧でした。
というか、この本の解説部分だけ読んでいれば、他の本にも通じるキニャールの哲学の半分以上が分かると言っても良いくらいです。
訳者の小川美登里さんは、本当に頭の良い人だと思います。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784801002340